
(写真:ロイター/アフロ)
半導体工場やデータセンターで大量に使われる水
企業活動に水は欠かせない。
企業の水利用というと、ミネラルウォーターや宅配水など製造がフォーカスされがちだが、他の工業製品の製造にも水は欠かせない。
2021年11月、熊本県に台湾の半導体大手TSMCが進出すると発表された。熊本が選ばれた理由は、関連企業の集積、交通アクセスのよさに加え、半導体生産に欠かせない水資源が豊富なこと。
半導体生産には純度の高い水が大量に必要で、TSMCのCSRレポートによると2020年には19万3000トンの水を使用している。一方で近年台湾は水不足に苦しむ。2021年は主要ダムの貯水率が低下し、生産に黄色信号が灯った。今後、世界的な水不足が懸念されており、安定的な生産のために熊本が選ばれたとされる。
IT企業であるメタが、どのように水を使っているか。普段は想像することもないが、実はデータセンターの冷却水として大量の水を使用している。
データセンターの高密度化にともない、消費電力が増えた。冷却システムに障害が発生すればサーバに悪影響がおよぶため、冷却効率の高い水冷式が採用されている。
そのためニューメキシコ州の中央部に位置するアルバカーキのデータセンターでは年間5万トンの水使用権をもっている。単純な比較はできないが、TSMCの水使用量の4分の1ほどだ。
どのように消費する水より多くの水を供給するのか?
企業は水を無償で汲み上げ、製品を製造して対価を得ているわけだが、地域住民などとのトラブルも発生している。2021年、フランスで「ボルヴィック」(ダノン社)の水源が枯渇した。周辺でも水不足が発生し、農業や魚の養殖ができなくなった。周辺住民は「過剰な取水が原因」と主張したが、企業は「気候変動による雨不足が原因」と返答した。
水は地域性の高い資源で、地域のなかで誰かが過剰に汲み上げれば、周辺の利用者に影響を与える。
そうしたなか"ウォーターポジティブ"という活動に取り組む企業が現れた。これは「企業が消費する水よりも多くの水を供給する」というもので、主に以下の2つの活動に分けることができる。
水使用量を減らす活動 → 節水と再利用
水供給量を増やす活動 → 涵養(地表面から地下に水を浸透させること。森林や湿地の保全、工場敷地内からの雨水浸透など)
では、具体的な企業の取り組みをみていこう。
マイクロソフトは、水使用量を減らす活動として、敷地や建物に雨水を集めるシステムを装備した。排水として流していた雨を使うことで、従来の地下水使用量を減らす。また、水をリサイクルしたり、冷却水のかわりに外気を使用しはじめた。
水供給量を増やす活動としては、湿地の保全やアスファルトなどの水を浸透しない表面を除去するプロジェクトに投資を行う。
前述のメタは、水利用の効率を高めるとともに、施設がある流域での涵養プロジェクトをはじめた。ニューメキシコ州、カリフォルニア州など6州で湿地の保全などを行い、年間32万トン以上の水を地表から地下へ浸透させる。
P&Gは、ユタ州とアイダホ州のベア川流域で、生態系の保護と涵養プロジェクトをはじめた。
"ウォーターポジティブ"と流域の関係
ここで注目したいのが、メタとP&Gが拠点のある流域でプロジェクトをはじめていることだ。
流域とは山に降った雨が集まり、地下水や川として海に出るまでの範囲。
企業は流域の水を消費しているのだから、流域内で涵養プロジェクトを行なってこそ、"ウォーターポジティブ"が掲げる「消費する水よりも多くの水を供給する」が達成できる。
水資源保全と生物多様性の保全のできる"ウォーターポジティブ"は評価できる活動だが、水の流れは目に見えないだけに科学的な分析や検証が必要になる。
具体的には、自社拠点で使う水がどこからきているのかという水の流れの把握。これによって拠点の流域を把握する。
次に、どのくらいの水を使用したかという消費量の公表、そして、どのくらい涵養したかという供給量の検証と公表だ。
こうしたデータを測定し公表することで、本当に消費する水よりも多くの水を供給したかがわかる。